その頃ロスアラミトス海軍航空基地の一室で、サンダース准将はクレメント次官補から電話で連絡を受けていた。 「そうか…。なる程、我々の予想していた通りだな。……分かった。特に危険があるようならば、ナイト財団の連中だけにまかせてはおけん。こちらでも手をうたなければならんからな。今後も何か動きがあれば、直ちに報告してくれたまえ」 そう言って受話器を置いたサンダース准将に、事の進展を心配している様子はかけらも無かった。いや、むしろ薄笑いを浮かべてさえいた。 しかしすぐに堅い表情に戻ると、再び受話器を取ってプッシュホンのボタンを押した。 しばらくして相手と繋がった。 「もしもし、ミスター・キング? ……サンダースだ。例の件はこちらの思う通りに運んでいる。今入った情報では、ナイト2000は既に狂いだした模様だ」 そう話している間にも、サンダースは緊張気味に額の汗をハンカチでぬぐっていた。 「……現在行方不明になっているらしいが、ナイト財団の奴等がじきに居場所を突き止めるだろう。そのうち適当に理由でもつけて軍の方で始末する。……ついでにあのマイケル・ナイトも今のうちに片づけて…」 そう言いかけると、電話の相手の罵倒の声がサンダースの耳を打った。 「…い、いや、分かった、奴には手は出さん。必ず君の指示に従う。勝手な真似はせんよ……また連絡する」 相手の受話器を置く音を聞いて、サンダースはやっと緊張を解きほっと息をついた。 サンダース准将に「ミスター・キング」と呼ばれた男は、広々とした部屋の中で、ゆったりとソファの背にもたれると、ウィスキーの入ったグラスを手に一人で「乾杯」の仕草をした。 「マイケル・ナイトとナイト2000を切り離せればいいと思っていたが、あの車め、本当に狂うとはな。うまく行きすぎだぜ。それにしてもこっちの計画にああ簡単に乗って来るとは、デボンもバカな奴だ」 男は氷の入ったグラス越しに、バーのカウンターに立っている女を見てニヤッと笑った。 「これでFLAGとか言う連中に邪魔されずに、あたし達の計画が実行できるわけね」 女も自分の為の水割りを作りながら話しかける。 「ああ。FLAG……いや、マイケル・ナイトにな」 『マイケル・ナイト』の名前を口にした時、男の目が異様に光った。 「ねえ、そのマイケル・ナイトって誰なの? どうしてそんな厄介な計画をたててまで動きを封じる必要があるわけ? たかだか一人の男じゃない。こんなに恐がるなんて、あんたらしくもないわね」 「誰が恐がっているだと!?」 男が凄い剣幕で怒鳴った。 「俺は、今度こそ奴にこれまでの礼をしてやる。その手始めに奴の一番大切にしているものを……あのナイト2000を財団の手で潰させてやる。そしてその次に奴自身を、俺のこの手で叩き潰す!!」 男はウィスキーを一気にあおり、空になったグラスを壁めがけて叩きつけた。 「今に見ていろ、マイケル・ナイト……。俺からすべてを奪った報いを受けるんだ!」 粉々になって床に散ったグラスを見て、男は不気味に笑った。そこには、口髭を生やしてはいるが、マイケルと正にうりふたつの顔があった……。 |