“どうでした? エイプリル” メンテナンス・ルームに戻って来たエイプリルに、KITTが待ちわびたとばかりに聞いた。 すでにKITTのオーバーホールは終わり、そろそろあたりも暗くなりかけていたにもかかわらず、マイケルだけでなくFLAGの責任者であるデボンにすら連絡がつかないでいたのだった。 エイプリルは小さく首を振ってKITTにこたえた。 「ダメよ。デボンからもマイケルからも連絡一つ入ってないわ。KITT、マイケルはどこへ行くかって事、言ってなかった?」 “私もさっきから考えてみているのですが、今朝のマイケルは少し変でした” 「変ってどんなふうに?」 “ここへ来る間、殆ど黙ったままだったかと思ったら、突然私に旧約聖書の事を聞くんです” 「旧約聖書? 聖書の何を聞いたの?」 “創世記第2章に出てくる、神が作った最初の人間<アダム>の事です” 「まあ、確かに変ね。マイケルらしくないわ。他には何か変わった事は言ってなかったの?」 “ええ。他には何も……。エイプリル、マイケルはどこへ出かけたのでしょう。デボンさんと一緒なのでしょうか。何だか心配になってきました……” 心細げにマイケルを心配するKITTの気を引き立てようと、エイプリルは冗談めかして言った。 「大丈夫よ。そのうち帰って来るわよ。おおかたお目付役がいないのをいい事に、どこかで羽根を伸ばしているだけでしょう」 “そうだと良いのですが……” まるでため息でもつくように答えるKITTを見て肩をすくめたエイプリルは、手持ち無沙汰をまぎらわせようと手近にあったナイト2000のチェックデータを取り上げた。 その時側の電話が鳴った。 「はい、メンテナンス・ルームです……あら、デボン、いまどこに……。ええKITTのオーバーホールは終わっていますわ」 エイプリルはそう言うと、KITTに向かってウィンクした。 受話器からデボンの声が続く。 『そうか……。エイプリル、良く聞いてくれ。マイケルが……』 「どうかしたんですか? マイケルが何か?」 『マイケルが撃たれた』 「何ですって!?」 エイプリルは一瞬絶句した。 「それで、それでマイケルは!」 『……』 デボンの返事が無い事が、事態の深刻さを物語っているようだった。エイプリルは受話器を堅く握り締めたまま、気持ちを奮い立たせる為に深く息を吸い込んだ。 「マイケルは今どこにいるんですか?」 不吉な答えの返ってくるのを恐れながら、エイプリルはデボンに尋ねた。 『南カリフォルニア病院に収容されている。私もそこにいる』 病院? と言う事は、マイケルは生きてはいると言う事なのだろうか……。しかしエイプリルはそれ以上デボンに確認するのが恐かった。 「とにかく私たちもそちらへ行きます。病院の場所を教えて下さい」 エイプリルは病院のアドレスをメモすると、受話器を置いた。 「……KITT、聞いてた?」 “ええ、エイプリル、すぐ行きましょう!” 病院に向かう道中、エイプリルもKITTも押し黙ったままでいたが、とうとうKITTが沈黙に堪え切れなくなったように話しかけた。 “エイプリル” 「なあに? KITT」 エイプリルの声も心なしか堅い。 “マイケルは大丈夫ですよね” 「そうね。大丈夫よ、きっと。今までだってそうだったでしょう? 信じましょう」 “そうします……エイプリル?” 「なに?」 “こんな時私は空が飛べたらいい、と思いますよ。それとも自分か車ではなく飛行機だったら…と。自分のスピードがこれほど遅いと感じた事はありません。エイプリル…。私は空を飛ぶ事が出来るようになるでしょうか” 「KITT……」エイプリルは微かにほほえんだ。 「そうね、今度考えてみましょうね。でもあなた、私が何か新しい機能を付けてあげようとするといつも嫌がっていたんじゃなくって?」 “もう嫌がりません、エイプリル” 「分かったわ、KITT……」 夜のフリーウェイを、ナイト2000はフルスピードで走りぬけた。 |