<<<Back ▲UP ■ The Farewell Knight ■



Chapter 2




 デボンは友人のレナード・クレメント国防次官補から「緊急かつ重大な用件がある」と、ロスアラミトス海軍航空基地に呼び出されていた。
 会見の場では、クレメントの他にもう一人、たとえハワイの海岸で水着姿で出会ったとしても一目で軍人と分かるであろう、いかにも押し出しの強そうな軍服の男も一緒にデボンを待っていた。
「ジャック・サンダース海軍准将だ」
 男はクレメントの紹介も待たず、自らそう名乗ると、いきなりデボンの前に右手を差し出した。
 慌てて握手に応じたデボンではあったが、サンダース准将の横柄な態度に反感を持つと同時に、内心かなり不安な思いにかられていた。
 そしてその思いはサンダースの切り出した話により、不幸にも的中していた事が証明された。
「KITTをテストするのに協力しろだって?! 誰がそんな事を!」
 准将が同席しているのもかまわずデボンはクレメントに食ってかかった。
「これは国防総省の電子保安司令部会で決められた事なのだ、デボン」
「どの部会で決まったか知らんが、ナイト2000は我がナイト財団の私有財産だ。何の理由があって君たちがそんな事を決めるんだね!」
「ミスター・シャイアー」
 サンダース准将が軍人らしい大声で呼んだ。
 反射的にデボンが准将の方へ体を向けた。その結果に満足そうに頷いたサンダース准将は、おもむろに言葉を続けた。
「君はIBMワトソン研究所のアルマン・デュポン博士を知っておるかね?」
「……最近急死された、ニューロ神経コンピュータの権威ですか? 確か<アダム>というコンピュータを開発している途中……」
 そこまで言いかけてデボンははっとした。そう、何故ペンタゴンがKITTに興味を示し、試そうという気になったのかが分かった。
「その<アダム>がどうなったかも知っているようだな。ならば話は早い。あのコンピュータ<アダム>は君の所のナイト2000のコンピュータ・システムと同じように人間に似せた感情を持つようプログラムされておった。しかし、デュポン博士の死によって君も知っている通り狂いだしたのだ」
 デボンは准将が次に言い出す事を予感して、苦しげな様子を示した。しかし准将はそんなデボンの表情などいっこうに気にしない様子で話しを続けた。
「君の所のナイト2000に、それと同様の事が起らないと、誰が断言出来るのかね」
「しかし准将、ナイト2000は<アダム>のような未完成品ではなく、完成された認識能力と人格を持つコンピュータです。それを同等に比較する事自体ナンセンスですぞ!」
 そこへクレメントが割って入った。
「だが、所詮は同じコンピュータじゃないのかね、デボン。むしろ、完成され、自分の意志で自由に動き回れるからこそ<アダム>とは比較にならない程危険な存在にもなり得る、とも言えるのではないか?」
 クレメントの言い分に対し、デボンは即座に反駁した。
「危険だって? ナイト2000は武器などではない! 仮に……あり得ない話だが、仮に狂ったとして、何が危険だというんだ!」
 そんなデボンの様子に、准将は最後の切り札でも出すようにもったいぶった口調で言った。
「ミスター・シャイアー。我々の情報収集力をあまり見くびらんでもらいたいものだな。確か<KARR>とか言ったかな、ナイト2000の試作品の車は。あの車の引き起こした事件を、君ならば当然覚えているだろうな。君もFLAGの責任者ならば、この事が何を意味するかももちろん分かっているだろうが」
 デボンはこの様な場所で<KARR>の名前が出てきた事に驚きをかくせなかった。あの悪魔のようなナイト2000の試作車の事件は、もう全て過去に葬られた話だと思っていたのだが……・
 デボンがまだ返事をしぶっていると思ったのか、クレメントが准将の言葉を引き継ぎ駄目押しをした。
「デボン。我々はこれでも譲歩しているのだ。このサンダース准将を含め、部会のメンバーの何名かは『ナイト2000の即時破壊を求める』という意見だった。だが、君たちのこれまでの働きを考え、テストを行うという事で妥協したのだ。もしナイト2000が君のいう通りのものならば、テストを実施しても何も起りはしないはずだ。この計画に協力する事はナイト財団にとっても決して不利にはならないと思うが……」
 そこまで言うと、クレメントはデボンの表情を伺うようにして待った。
 かなりの沈黙の後、とうとうデボンは頷いた。
「分かった。協力しよう」
 結局デボンはナイト2000に対するテストの実施を飲む事にした。その決断は、FLAGの責任者として、それ以上に一人の人間として気の重いものだった。ましてや今まで何のためらいもなくKITTを人格を持った……いや、同等の仲間として接してきたデボンだった。そのKITTを一つの「機械」として試す事に罪悪感を感じながらも、デボンの中の科学者としての考えがそれを押さえ、テストを受け入れさせたのだった。それにたとえ最後まで拒絶したとしても、国防総省がそのまま黙って了解する事はとうていあり得ない。
 そんなデボンの気持ちに追い討ちをかけようにサンダース准将が言い放った。
「ではさっそく打ち合わせを始めよう。かなりの時間をロスさせてしまったからな」
「打ち合わせ? 今からですか! レン、どう言う事だ、これは。こちらにも都合と言うものあがる。一旦財団に戻って……」
「いや、デボン」
 クレメントはデボンの言葉を遮った。
「君を信用しないと言う訳ではないが、この件については君意外には一切知らせずに進める事になっている。だから打ち合わせは今日この場で行う」
「FLAGの人間も信じられんのか」
「テストの内容が内容なだけにな。それから君にはしばらくの間ここにとどまってもらう」
「何だって!?」
 デボンが目をむくのを見て、さすがにクレメント次官補もきまりの悪そうな表情を見せる。
「悪く思わんでくれ。しばらくと言ってもテストの終わるまでの数日間だけだ。その間FLAGの方へ連絡をとってもらうのは構わんよ。但し、私も同席させてもらうがね」
「なる程……囚人扱いと言う訳か」
 そう吐き捨てるように言うデボンは、すでに腹が立つより呆れて果てていた。しかしもう後戻りは出来ないのだ……。


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